膀胱炎は、膀胱内で細菌が炎症を起こす病気です。
ほとんど女性に起こり、女性は人生のうちで1回は膀胱炎になるとまで言われる、大変ありふれた病気です。
原因となる細菌のほとんどは、腸内細菌と呼ばれる、腸の中に住んでいる菌です。
どんなに洗っても、誰でも肛門の周辺には腸内細菌が付着しており、腸内細菌が尿道に入って繁殖すると膀胱炎になります。
女性は尿道と肛門が距離的に近いため、膀胱炎がよく生じます(男性では極めてまれです)。
治療は、原則として抗生物質の内服です。きちんと内服すれば、たいてい治ります。
にもかかわらず、この膀胱炎で悩んでいる方もおられます。中年以上の女性で、治らない・繰り返す膀胱炎で困っている方は、結構多いようです。
当院では、治らない膀胱炎・繰り返す膀胱炎に対し、様々な方法で取り組んでいます。
本当に膀胱炎でしょうか?
自覚症状のみで自己判断した方もおられるでしょう。周りの方に、それは膀胱炎だよ、と言われた方もおられるでしょう。
でも、本当に膀胱炎なのでしょうか。
膀胱炎でなければ膀胱炎の薬が効かないのは当たり前です。症状だけの判断は正確でないこともあります。
診断には、詳細な問診に加え、尿検査が必須です。
実は尿検査には2通りあります。
①簡単に検査テープを尿につけて調べる方法と、②尿の一部を遠心分離して、標本を作って顕微鏡で調べる方法(尿沈査)です。
①の方法のみ行う医療機関も多いのですが、不正確なことがあります。
やはり、②の方法で、尿の中に細菌と白血球の存在を確認することが必要です。潜血反応だけでは膀胱炎は確定できません。
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- 写真1 正常の尿沈査(400倍):ほとんど何もない
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- 写真2 膀胱炎の尿沈査(400倍):細菌(小さく細長い)と白血球(丸い)が多数みられる
治療は適切でしょうか?
膀胱炎であれば抗生物質で治します。
最もよく用いられる抗生物質には、ニューキノロン系抗生物質(レボフロキサシンなど)があります。
この薬は、様々な感染症に効果があり、科を問わず広く使用されています。
ところが、最近、腸内細菌の中でも、最もよく膀胱炎の原因となる大腸菌で、ニューキノロン系の抗生物質が効かないタイプがみられるようになっています。当院の検査結果では、約20%強の大腸菌では効かなくなっていました。
特に、他の病気で、最近3か月以内にニューキノロン系の抗生物質を内服している場合、効かなくなっている可能性は高いと予想されます。
また、膀胱炎の原因が、それ以外の菌であった場合、抗生物質の効き方も変わってきます。
クラミジアやカビの仲間やトリコモナスなどは、通常の抗生物質の内服では不十分です。
尿培養という検査を行い、菌の種類・薬の効き方の確認を行っておくのがよいでしょう。
このほか、抗生物質が有効な場合でも、自己判断で内服を中止すると、完全に治らず、しばらくして再び膀胱炎が生じることがあります。
自覚症状の消失=膀胱炎が治った、ということではありません。
内服はきちんと行ってください。
他の病気は隠れていないでしょうか?
他の病気が背後にある膀胱炎は、なかなか治りません。原因となる病気を見つけ、それを改善する必要があります。
原因となる病気には次のようなものがあります。
- 泌尿器系:
- 尿路結石、膀胱がん、神経因性膀胱、尿道腫瘍(尿道カルンクラなど)、尿路の先天的奇形など
- 泌尿器系以外:
- 糖尿病、産婦人科疾患、骨盤内手術後(大腸がん、子宮がん、卵巣がんなど)
このなかで、比較的多いのが、神経因性膀胱(何らかの病気で膀胱の神経が異常をきたし、膀胱が十分働かなくなる)で、残尿が多い方です。
残尿を減らす治療も並行して行う必要があります。
また、糖尿病のコントロールがよくない場合でも、膀胱炎を繰り返す傾向があります。
それでも繰り返す・治らない膀胱炎をどうすればよいでしょうか?
原因不明の場合も多く、また原因が明確でも改善できないこともあります。
その場合、患者さんの年齢、状態、再発頻度などを考慮し、試行錯誤しながら、次のような対応を行います。
- 1.生活習慣の改善
- 以下の点について注意することで、膀胱炎の頻度を少なくできるかもしれません。
・排尿をがまんしすぎない。
・水分をしっかりとる。
・排尿・排便後、前から後ろにふく。
・性交後には、早めに排尿する。 - 2.薬で予防する
- 漢方薬や抗生物質を内服し、予防する場合があります。
抗生物質は、菌の種類をよく調べたうえで、少量を毎日使用します。
また、閉経後の女性では、女性ホルモン剤を用いると有効な場合があり、産婦人科の先生と相談しながら行います。 - 3.その他
- 欧米では伝統的に、膀胱炎の予防として、クランベリージュースがよく使用されます。
クランベリーはツルコケモモとも呼ばれる植物で、果実に含まれる物質が膀胱炎を予防する、と言われています。
ただし、あくまで食品ですので、過度の期待はできません。
受診される際には
なかなか難しいとは思いますが、症状があり、かつ抗生物質を内服していない状態で受診してください。
抗生物質を内服すると、そのときには菌の種類の検査はできなくなります。
同様に、膀胱炎の症状がないときに受診されても、菌の検査はできません(他の病気の検査は可能です)。
また、最近の内服状況が分かったほうがよいので、内服薬やお薬手帳は是非ご持参ください。